先日肝障害を契機にB型肝炎陽性(HBs抗原陽性)が判明した患者さんがいらした際、初期診断と治療マネジメントをどうすればいいか勉強しなおしましたのでそのまとめです。
B型肝炎の感染と発症様式
B型肝炎の発症様式は大きく3つに分けられ、それぞれのパターンが異なります。
- 垂直感染(母子感染)
- 水平感染
- denovo肝炎(免疫抑制剤投与による再活性化)
診療科の特性上、対応するのは水平感染での発症が多いですのでその他は割愛します。国立国際医療研究センターの肝炎情報センターでの情報1)通り、水平感染では傷のある皮膚への体液付着や性交渉、針や刺青などから感染が成立します。2015年の米国での報告2)によれば性交渉が急性B型肝炎の35%を占めるとされています。HIVやHCV、あるいは淋菌クラミジアなどの他の性感染症との合併も少なくありません(これは一般的な性感染症として言えることです)。
潜伏期間は非常に長く、1~6か月(!)と幅があり、平均90日での発症が多いようです3)。6か月後でも発症リスクがあるというのは驚愕です。
臨床症状
発症者の70%程度は無症状ないし黄疸を伴わない程度の肝炎で、30%程度は黄疸を伴うような肝炎を発症します。他の肝炎ウィルスの合併があったり基礎疾患がある方ではより重篤になることが知られていますが、劇症肝炎は稀で、頻度は0.1-0.5%です4)。乳児・5歳未満の子供では通常無症状で、成人でも30歳未満の人は30歳以上の人に比べて症状を示す割合は低くなります5)。
そのため多くの症例では一般的な肝炎症状(発熱、食欲不振、嘔気、黄疸、右上腹部違和感)が生じます。インフルエンザ様の前駆症状を呈することもあり、関節痛、咳嗽や腹痛、下痢などを呈することがあります6)。急性症状という表現からはかけ離れてしまいますが、糸球体腎炎や関節炎、血管炎などを合併することも知られており、HBVやHCVなどの肝炎ウィルスは総合診療科的には不明熱や血管炎疑いの際の重要な鑑別診断です。繰り返しますが、「肝炎ウィルス≠黄疸を必ず伴う」ということに注意が必要です。
検査所見
UpToDateなどでは、急性期にはAST,ALTが上昇し、通常1000-2000U/Lまで上昇するとされていますが、ここにピットフォールがありそうです。普段肝炎に携わらない診療科からすれば、「1000以上にはならないにせよ、少なくとも100-300ぐらいには上がるでしょう。」「ほんのわずかしか上がってないし、これは慢性肝炎の可能性が高い。」と考えてしまいがちだと思いますが、そうとは限りません。一体、HBVの水平感染の有症状発症者は、どれぐらいのAST・ALTの推移になるでしょうか。
まず、そもそもAST・ALTの推移にそもそも時間的な変化がある旨は念頭に置かなければいけません。2014年のLancetのreview8)では下図のように変動するとされています。このタイムスパンが重要で、「横軸は月単位」です。初診のタイミングでは大した肝障害ではなかったのに、1か月後フォローの際には桁違いになっている、といったことが起こりえます。

よりALT値のみグラフ化及び単位挿入
第二に、個人ごとにAST・ALTのピーク値が異なる点にも注意が必要です。max AST・ALTがどれぐらい異なるのかを調べてもなかなか出てこずエビデンスとしては出せませんが、生体差・採血タイミングの問題がある以上、ある程度の幅はあるように思われます。また、実際にはAST・ALTの値よりもビリルビン値やプロトロンビン時間などの凝固系や意識レベルといった劇症肝炎の評価や、後に示すDNA量の方が重要なので、この論議は不要なのかもしれません。(もしエビデンスが見つかったら追記します)
急性肝炎と慢性肝炎
実際に診断するときのことを仮定してみます。例えば疑わしいエピソードがある方が、その3か月後ぐらいに肝炎症状が出現したとします。エピソード+採血所見+HBs抗原陽性があれば急性肝炎の診断は容易です。そういった正常な免疫能の方の水平感染による急性肝炎であれば、たとえ治療介入がなくとも、慢性肝炎に進行する可能性は2.5-3.3%程度と報告があります9)ので、基本的には治療基準(後述)を超えない限りには対症療法で経過を追う形となります。そしてもし「6か月以上を超えてHBs抗原陽性が続く」ようなら慢性肝炎の診断となるわけです。
上記のような症例であれば診断は容易ですが、一方で、例えばエピソードや非特異的症状が複数の期間であったりして、発症様式も緩徐であったりなど、発症タイミングがわからない場合にはどうすればいいでしょうか。慢性肝炎患者では一時的に肝炎症状が増悪(フレア)することが知られており、このタイミングで診断した場合には区別が難しい場合があります。特にこういった慢性肝炎が過ぎるような症例では、治療レジメンの”期間”を決める上で重要になってきます。
実際には判断に迷う場合には、病歴と採血データと、IgM-HBc抗体やHBe抗原等肝炎マーカーを考慮しながら総合的に考えるしかないとは思いますが。
抗ウィルス薬を用いるかどうか
上述のごとく、急性肝炎での慢性化の率は3%程度と低いです。しかし、急性肝炎でも抗ウィルス薬を必要とする症例がありますので、消化器内科へのコンサルトの前にデータをそろえておくとよいかもしれません。
急性肝炎で例外的に抗ウィルス薬を用いる症例は、
- 凝固異常 (INR>1.5)
- ビリルビン3mg/dL以上の黄疸
- 症状持続? (←UpToDateにはこれ以上の詳細は書いてありませんでした)
- 急性肝不全
を想定します。免疫不全の患者やHCV,HIVの同時感染、肝臓の基礎疾患、高齢者ではまだ定まったものはないようです。(ただしHIVに限って言えばどのみちHBV活性のある薬剤を用いるのでそこまで問題にはなりません)。また、上記の急性肝炎での治療基準は日本のB型肝炎治療ガイドライン10)には記載されておらず、CDCからの引用となります。(日本ではGenotypeの違いから慢性化する率が欧米に比べて低いからでしょうか…?)
一方で、慢性肝炎の治療に関しては日本のガイドラインでも明記されていて、
- ALT>31
- HBV DNA量> 4 log copies/mL (欧州に準じて3.3以上も可)
- 組織学的な肝硬変
といった形で慢性肝炎の治療基準は意外とシンプルです。実際には肝生検を要することは少ないですので、ALT値とDNA量だけで決められそうです。ただし実際には上記の時間的推移や年齢、リスクなどを総合的に考えるとされています。
B型肝炎を診断するときには
したがって、総合診療医の立場からすれば、
- まずそもそも拾い上げる。
血管炎症状など非特異的症状を呈しうる。AST・ALTの値からはr/oできない。 - 他の性感染症との合併を見つける。特にHIVは治療に直結するので注意!
- (時間があるなら) HBe抗原やHBe抗体、IgM-HBc抗体、HBV-DNA量などを提出し病期診断の手掛かりにする
- Bil、凝固能、意識障害などを評価しつつ、緊急のコンサルトを要するか判断する。
といったところが必要でしょうか。
もしそれ以外に、こういったことを追加でしておいてほしい、なんて意見があればぜひコメントに書いていただければ助かります。
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引用:
1) 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センターHP
https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/b_gata.html
2) Iqbal K, Klevens RM, Kainer MA, et al. Epidemiology of Acute Hepatitis B in the United States From Population-Based Surveillance, 2006-2011. Clin Infect Dis. 2015;61(4):584-592.
3) 厚生労働省検疫所 FORTH B型肝炎について(ファクトシート)
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2012/08280858.html
5) CDC Hepatitis B Clinical Signs and Smptoms of Hepatitis B
6) Johns Hopkins Medicine Hepatitis B
7) Primarycare sysmex 急性肝炎
https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2&pk=76
8) Trépo C, Chan HL, Lok A. Hepatitis B virus infection. Lancet. 2014;384(9959):2053-2063.
9) Kumar M, Satapathy S, Monga R, et al. A randomized controlled trial of lamivudine to treat acute hepatitis B. Hepatology. 2007;45(1):97-101.
10) 日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン 第4版


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