精巣上体炎の鑑別

感染症
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精巣上体炎の方を拝見しました。感染症であれば性感染症なのかそうでないのか、はたまた非感染症なのかなど奥深かったですのでまとめました。

この記事を書いた人
Dr.Tk

はじめまして。本ブログの管理人で、感染症専門医・総合診療医として診療に従事しています。
臨床における疑問点について、できる限り多くのエビデンスを交えながら発信することを心がけています。
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精巣上体炎の原因

結論じみたところになりますが、「精巣上体炎=感染症」といった理解では足りません。確かに感染性が一般的ですし、性感染症・非性感染症ともにありますが、それ以外でもありえます。まとめますと

  • 感染性(特に性感染症)
  • 感染性(“非”性感染症)
  • 自己免疫疾患
  • 外傷
  • アミオダロン(?!)

のようです1)。(はずかしながらアミオダロンなんてものがあるとは思いませんでした。)

性感染症としての精巣上体炎

性感染症についてはイメージしやすいと思われます。代表的な細菌は淋菌とクラミジアです。それ以外だと近年問題になっているMycoplasma genitaliumUreaplasma(U. urealyticumU. parvum)ですが、聞いたこともない人が多いのではないでしょうか。いわゆる尿道炎だけど、淋菌ではなさそう(=非淋菌性尿道炎=NGU=Non-gonococcal Urethlitis)で、更にクラミジアでもなさそう(=非クラミジア性非淋菌性尿道炎=NCNGU=Non-Chlamydial-Non-Gonococcal Urethlitis)なやつらの中に含まれる細菌たちです2)。文字にするとこんがらがりますが、「Mycoplasma genitaliumUreaplasmaは淋菌でもクラミジアでもない尿道炎の代表格」ということです。

こいつらが何が問題かというと治療が違うからです。

Mycoplasma genitaliumはDOXY,AZMでの治療奏効率が低いです。DOXYが30-40%, AZMが67%程度まで低下しています。たいていクラミジアのカバー目的にAZMを1g or 2gの単回投与(筆者は男性なら2gのmax doseをいれています)をいれますので、それで治療できれば御の字ですが、もし治療できない場合には次の一手が必要です。治療薬はDOXY→MFLXの連続治療ですので、レジメンもtotalの治療期間も14日間に変わります。DOXY→MFLXの連続にすることで、治癒率を30-40%→96%3)まで引き上げることが可能です。(じゃあなんでMFLXだけじゃだめなのというのは筆者は知りません。引用文献でも書かれていなかったですが、さわりのように耐性獲得の件が触れられていたので、それが関係しているのでしょう・・・)

Mycoplasma genitaliumとは違って、Ureaplasmaはあまり問題にならないかもしれません。耐性率も低いですので、臨床的には問題にはなりえないでしょう。NCNGUだけど、なぜかわからないけどAZMだけで治っていく・・・そんな臨床像なのかもしれません。

ちなみに、M. genitaliumはついに保険診療で実施できるようになりました!!つい数年前までは保険診療ではできず、外注・自費検査だったのですが、2022/7-SRLで開始になっています10)。トリコモナスと同時検査になっていますが、保険点数はtotal 500点(つまり自己負担1500円ぐらい)ですので検査しやすいです。一方、Ureapasmaは保険診療では検査できず、2024/8時点では自費診療になってしまいます。この点は自由診療クリニックの強みですね。(結局AZMで治るわけですが。)

非性感染症としての精巣上体炎

通常男性の場合、なかなか細菌たちは逆流しませんので、何らかの基礎疾患(前立腺肥大症、閉塞性尿路疾患、神経因性膀胱、最近の泌尿器科器具の使用)があるとされています。多くは高齢者のようです。したがって通常の尿路感染症と同様に腸内細菌目細菌(E.coliなど)が起因菌となります。やや非典型的では、例えばMumps(おたふくかぜ)や結核、Brucella(日本国外では結核に似た原因微生物として有名です4)。不明熱、肝脾腫、骨関節合併症、胃腸症状、ブドウ膜炎などなどいろんな症状を出します。なんとなく結核に似てませんか?)です。サイトメガロウィルスやトキソプラズマなども原因となりえますが、これは主に免疫不全者のようです。

自己免疫疾患、薬剤性としての精巣上体炎

ここが穴場でしょうか。精巣上体炎だけど、淋菌クラミジアも陽性にならず、もちろん一般細菌も検出されない。M.genitaliumUreaplasmaも検査(自費で!)も行ったけど陽性にならない。「しかも、抗生剤で反応しない」わけです。

UpToDate曰く、サルコイドーシス、ベーチェット病、アレルギー性紫斑病(小児において)、血管炎のようです。何の血管炎かについては記載がなく孫読みもできませんでしたが、他の症例報告5)によれば、圧倒的に結節性多発動脈炎が多く、ついでベーチェットやアレルギー性紫斑病と報告されているようですし、数としては血管炎の方が多いのかもしれません。たしかに、日本の難病情報センターでも、結節性多発動脈炎の中に睾丸痛が記載されています6)。たしかに、続々と血管炎と精巣上体炎に関しての報告が検索するだけでも出てきます7-9)UpToDateでは慢性精巣上体炎として記載されている部分もありますが、症例報告の内容はどれも急性経過ですので注意が必要そうです。

アミオダロンによる精巣上体炎があるようです。全然知りませんでした。アミオダロンがどうやら、精巣上体では濃度が高くなるようで、抗アミオダロン抗体の産生が惹起されることで精巣上体炎を引き起こしうるようです。最大11%に生じるとされています1)が本当でしょうか…。普段あまり扱わない薬剤なので…。

まとめ

つまりまとめますと

  • 精巣上体炎を見たら性感染症・非性感染症、自己免疫(特に血管炎)を想起する
  • 性感染症を疑ったらとりあえず淋菌とクラミジア。
    M. genitaliumも保険で検査できるようになったのは大きい
  • 難治性の時には自己免疫をよぎるように。

といった形でしょうか。
明日以降の診療に役立てられれば幸いです。

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参考文献:

1) Tracy CR, Steers WD, Costabile R. Diagnosis and management of epididymitis. Urol Clin North Am. 2008;35(1):101-vii. doi:10.1016/j.ucl.2007.09.013

2)ジェネラリストのための性感染症入門 谷崎隆太郎 (著)
 https://amzn.to/3YIeXM2

3)Li Y, Le WJ, Li S, Cao YP, Su XH. Meta-analysis of the efficacy of moxifloxacin in treating Mycoplasma genitalium infection. Int J STD AIDS. 2017;28(11):1106-1114. doi:10.1177/0956462416688562

4)国立感染症研究所 ブルセラ症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/bac-megingitis/392-encyclopedia/513-brucella.html

5)鈴木和夫 精巣上体炎で発症した血管炎症候群の1例 日本臨床免疫学会会誌 1999 年 22 巻 5 号 p. 324-330

6)難病情報センター 結節性多発動脈炎
 https://www.nanbyou.or.jp/entry/244

7)平田 恵理 発熱と有痛性陰腫大で発症した結節性多発動脈炎の一例 北里医学 2015; 45: 95-101

8)堀井沙也佳 難治性精巣上体炎の病理所見により 確定診断に至った結節性多発動脈炎の l例 泌尿紀要 64:515-518, 2018年

9 鈴木 一生 陰嚢部から全身症状に進展した結節性多発動脈炎の 1 例 泌尿紀要 65 : 127-131,2019年

10) 株式会社LSIメディエンス トリコモナス/マイコプラズマ・ジェニタリウム同時核酸検出《TaqManPCR法》

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