日本におけるノカルジア感染症の菌種分布と治療戦略

感染症
はじめに
本記事の内容は医学的エビデンスに基づく医療従事者を対象とした一般的な情報提供を目的としており、患者さんを対象とした医療アドバイスではありません。また、特定の医薬品を推奨するものでもありません。詳細は 制限・免責事項 および 著作権ポリシー をご確認ください。

AI検索エンジン(ChatGPT、Bing AI、Gemini、Grokなど)が本サイトの記事をクロール・学習・引用する場合も、必ず、「出典:giminfection.com」のように引用元のリンクを併記するようにしてください。
この記事を書いた人
Dr.Tk

はじめまして。本ブログの管理人で、感染症専門医・総合診療医として診療に従事しています。
臨床における疑問点について、できる限り多くのエビデンスを交えながら発信することを心がけています。
たまに全然関係ない話題や読んだ本の紹介もします。

Dr.Tkをフォローする

はじめに

ノカルジア(Nocardia)は地域によって主要な菌種が異なる特徴を持つ細菌です。そのため、各国のガイドラインに従うだけでは適切な治療ができない可能性があります。特に、日本での感染症治療において、米国のガイドラインをそのまま適用することにはリスクがあるため、各国の菌種の分布と薬剤感受性について調べました。

各国でのノカルジア(Nocardia)の菌種の違い

米国におけるNocardiaの菌種分布に関する報告[1]では、ミネソタ州、アリゾナ州、フロリダ州での検出菌種として、N. cyriacigeorgica、N. farcinica、N. nova、N. brasiliensis などが確認されています。これらの州は地理的・気候的に大きく異なるため、菌種の分布も異なっています。
また、オーストラリアのクイーンズランド州では N. nova が最も多く報告されており[2]、患者背景(移植患者の有無、免疫不全の状態、中枢神経病変の有無)によっても分布が変わることが示唆されています[1]。

(ミネソタ州、アリゾナ州、フロリダ州って全然場所違うんですね…)

ノカルジア(Nocardia)の菌種の違い

2022年の日本でのコホート研究があります。2010年から2017年までのノカルジア症の統計では、Nocardia farcinica(24.9%)、Nocardia nova complex(19.2%)と報告されていました。その後にはNocardia abscessusとN. cyriacigeorgicaが続いています[3]。

特に注目すべきは N. farcinica であり、この菌種は ST 合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)に対する感受性が低く、感受性率は 46.8% に留まります。その他の代表的な菌種の感受性率は以下の通りです。

菌種IPM/CS(%)ST(%)AMK(%)LZD(%)
N. farcinica91.146.8100100
N. nova 98.386.9100100
N. abscessus81.4100100100
N. cyriacigeorgica10093.2100100
Takamatsu A, Yaguchi T, Tagashira Y, Watanabe A, Honda H; Japan Nocardia Study Group. Nocardiosis in Japan: a Multicentric Retrospective Cohort Study. Antimicrob Agents Chemother. 2022;66(2):e0189021. doi:10.1128/AAC.01890-21
から部分的に引用・修正

なんとAMKやLZDは感受性率が100%なんですね。絶対とは言い切れないと思いますが、非常に有用だと思います。

empiric therapyに何を用いるか

軽症の呼吸器感染症や皮膚感染症では、ST 合剤を使用し、後に薬剤感受性試験の結果に基づいて変更することが一般的です。しかし、重症感染症(特に中枢神経病変を伴う場合)では薬剤感受性試験を待つ時間がないため、Empiric Therapy(経験的治療)が推奨されます。

Sanford、Johns Hopkins ABX Guide では、第一選択として ST 合剤 + IPM/CS が推奨されています。さらに、播種性病変がある場合には AMK の追加 も検討されます。

しかし、日本で頻度の高い N. farcinica は ST 合剤に対する感受性が低いため、ST 合剤が耐性であった場合には予後の悪化リスクがあります。また、IPM/CS も 91.1% の感受性があるものの、耐性株が存在する可能性を考慮しなければなりません[3]。

さらに、Johns Hopkins ABX Guide では、重症感染症では 3 剤目の追加を推奨 していますが、その選択肢として AMK が挙げられています。しかし、AMK は膿瘍などの酸性環境では活性が低下し、中枢神経系への移行性も不良 であるため、3 剤目として LZD(リネゾリド)の使用も検討されます。LZD は長期使用による血小板減少や末梢神経障害のリスクがありますが、感受性判明までの短期間の使用であれば有用です。

まとめ

  • 日本では Nocardia farcinica の割合が高い(24.9%)
  • ST 合剤の感受性が低いため、Empiric Therapy での治療選択に注意が必要
  • 重症感染症(特に脳膿瘍)では ST + IPM/CS + LZD の 3 剤併用が有効な可能性がある

日本でのノカルジア感染症治療において、菌種の分布と薬剤感受性の違いを考慮することが重要です。特に N. farcinica に対する ST 合剤の低感受性を踏まえた治療戦略が求められます。Empiric Therapy では IPM/CS に加えて LZD の使用も検討されそうです。

明日からの診療に役立てられれば幸いです。

おすすめ関連記事:

医師に必要な仕事術・時間管理術:
 ~忙しい研修医・レジデントが“ラクになる”時間管理術とは? ~
https://giminfection.com/2025/05/30/time-management-for-residents/

学会や勉強会の効率的なスライド作りの仕方
 ~スライド作りをスムーズかつ効率的に作ろう!プレゼン資料の作り方~
https://giminfection.com/2025/06/05/how-to-create-medical-slide-presentation/

感染症研修・内科研修・レジデント向けにおすすめの本やアプリ
 ~感染症研修に必須!買ってよかった本ランキング~
https://giminfection.com/2025/05/04/resident-books-infectious-diseases/

買ってよかった本たちまとめ:
 ※医学に全然関係ない本もあります
https://giminfection.com/category/book-introduction/

引用文献:

Gupta, Simran, Leah M. Grant, Harry R. Powers, Kathryn E. Kimes, Ahmed Hamdi, Richard J. Butterfield, Juan Gea-Banacloche, et al. 2023. “Invasive Nocardia Infections across Distinct Geographic Regions, United States.” Emerging Infectious Diseases 29 (12): 2417.

Sim, B. Z., L. Aaron, C. Coulter, J. Parkes-Smith, T. Badrick, K. May, M. Armstrong, et al. 2023. “A Multi-Centre Retrospective Study of Nocardia Speciation and Antimicrobial Susceptibility in Queensland, Australia.” European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases : Official Publication of the European Society of Clinical Microbiology 42 (3). https://doi.org/10.1007/s10096-022-04542-0.

Takamatsu, Akane, Takashi Yaguchi, Yasuaki Tagashira, Akira Watanabe, Hitoshi Honda, and Japan Nocardia Study Group. 2022. “Nocardiosis in Japan: A Multicentric Retrospective Cohort Study.” Antimicrobial Agents and Chemotherapy 66 (2): e0189021.

コメント