最近、抗原検査の偽陽性と偽陰性を調べてまとめています。まずは頻度の高いA群連鎖球菌( Streptococcus pyogenes)の偽陽性と偽陰性をまとめてみました。
A群溶連菌の偽陰性(False Negative)
まずは偽陰性から。これは「迅速抗原検査では陰性だったけれど、培養検査やPCR検査では陽性になる」というパターンです。主に次の2つのケースで偽陰性が生じます。
- そもそも菌量が少ないとき
- 実は培養検査の結果が偽陽性だったとき
臨床的に問題になるのは①の「菌量が少ないとき」かもしれません。確かに、A群溶連菌の診療ガイドラインでは、抗原検査で陰性となった場合には咽頭培養を実施すべきとされています[1]。しかしながら、実際には培養検査を追加するかどうかについてはたびたび議論になります。抗原検査と培養検査の同時実施が保険適用外となる可能性があることもありますし、IDSA(米国感染症学会)のガイドラインでも、成人では培養検査は必須ではないとされています。さらには、たとえ溶連菌が陰性であっても、C群やG群連鎖球菌、あるいは Fusobacterium 属菌による咽頭炎の可能性があれば、結局は抗菌薬の投与が検討される場面もあります[2]。筆者も、咽頭培養を実施する機会は実際ほとんどありません。
②についても少し補足すると、「培養検査で S. pyogenes が検出された」と報告されても、実は他のベータ溶血性連鎖球菌(例:C群やG群)を誤って S. pyogenes と判定しているケースがあるということです。
A群溶連菌の偽陽性(False Positive)
次に偽陽性についてです。これは、「抗原検査では陽性だったが、実際には培養で S. pyogenes が検出されない」というパターン。
これには正直驚きました。あまり意識する機会がなかったので、「偽陽性なんてあるのか」と感じたのを覚えています。
① Streptococcus milleri group による偽陽性
S. milleri group は口腔内に常在する連鎖球菌で、S. constellatus、S. intermedius、S. anginosus の3菌種が含まれます。
これらS. milleri groupは S. pyogenes と同じ A群炭水化物抗原 を発現しており、これにより偽陽性を示すことが報告されています[3,4]。一部の研究では、抗原陽性症例の約15%が培養陰性であったという驚きの結果もありました(本当にそんなに多いのかは疑問ですが…)[3]。
例えば、抗原検査で「うっすらラインが出た」ようなときや、「A群溶連菌性咽頭炎と診断されたけれど実際には膿瘍が目立ち、培養で S. intermedius が出てくる」ような症例では、この偽陽性が疑われるかもしれません。
② 非溶血性 S. pyogenes のとき
これを「偽陽性」と呼ぶかは微妙なところです。培養検査を行った際に非溶血性の S. pyogenesだと、通常見られる溶血環が出ずに「培養陰性」と誤報告されることがあります[5,6]。これは S. pyogenes が産生する溶血毒素のひとつ、Streptolysin S が欠損している株に起こります。日本での頻度は不明ですが、2011年時点の報告では「稀」とされているようです[5]。
ちなみに、溶血がないからといって無害とは限らず、蜂窩織炎・肺炎・敗血症などの原因となることも報告されています[7–10]。
③ 抗菌薬の事前投与
こちらは言うまでもなく、事前の抗菌薬投与によって菌が死滅してしまい、培養検査が陰性になるというケースです。病歴から推測できる範囲ではありますね。
抗原検査の限界を知っておく
一般的に感度・特異度が高いとされるA群溶連菌の迅速抗原検査ですが、偽陰性だけでなく偽陽性も起こりうるという事実には驚かされます。以前別記事([レジオネラの尿中抗原の偽陽性について])でも書いたのですが、抗原検査には交差反応や検出限界などの課題があることは、知っておいて損はないと思います。
もし興味があれば、↑の記事もぜひ読んでみてください。
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引用文献:
1. Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, Gerber MA, Kaplan EL, Lee G, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55: e86–102.
2. 一般社団法人日本感染症学会. 気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版). Available: https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2211_teigen.pdf
3. Johnson DR, Kaplan EL. False-positive rapid antigen detection test results: reduced specificity in the absence of group A streptococci in the upper respiratory tract. J Infect Dis. 2001;183: 1135–1137.
4. Rubin L, Kahn R, Vellozzi E, Isenberg H. False positive detection of group A Streptococcus antigen resulting from cross-reacting Streptococcus intermedius (Streptococcus milleri group). Pediatr Infect Dis J. 1996;15: 715–717.
5. 高橋美紀. 真珠腫性中耳炎患者から分離された非溶血性 Streptococcus pyogenesの一症例. Available: https://www.jscm.org/journal/full/02101/021010040.pdf
6. Rubin LG, Mirkin GS. Apparent false positive detection of group astreptococcusantigen resulting from pharyngeal infection with a nonhemolyticstreptococcus pyogenes. Pediatr Infect Dis J. 2000;19: 672.
7. Sönksen UW, Ekelund K, Bruun BG. Case of bacteraemic cellulitis by a non-haemolytic strain of Streptococcus pyogenes. Scand J Infect Dis. 2007;39: 262–264.
8. Taylor MB, Barkham T. Fatal Case of Pneumonia Caused by a Nonhemolytic Strain of Streptococcus pyogenes. Journal of Clinical Microbiology. 2002. doi:10.1128/jcm.40.6.2311-2312.2002
9. Colebrooke L, Elliott S, Maxted WR, Morley C. Fatal case of sepsis caused by a non-haemolytic strain of Streptococcus pyogenes. 2007 [cited 24 May 2025]. Available: https://www.semanticscholar.org/paper/Fatal-case-of-sepsis-caused-by-a-non-haemolytic-of-Colebrooke-Elliott/0924440d2693b0bea87af9d43f3d9e465f7f6648
10. Turner DPJ, Gunn SL. Fatal case of sepsis caused by a non-haemolytic strain of Streptococcus pyogenes. J Clin Pathol. 2007;60: 1057.


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