学会や勉強会の効率的なスライド作りの仕方

仕事術
はじめに
本記事の内容は医学的エビデンスに基づく医療従事者を対象とした一般的な情報提供を目的としており、患者さんを対象とした医療アドバイスではありません。また、特定の医薬品を推奨するものでもありません。詳細は 制限・免責事項 および 著作権ポリシー をご確認ください。

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病院勤務をしていると、定期的に「今度の医局会で○○について発表してね」といった形で、勉強会の発表役が回ってくることがあります。筆者は総合内科と感染症科に所属しているため、総合内科的な症例検討の発表や、感染症科であれば話題になっている感染症や検査(たとえばfilmarrayについてなど)について話すことがよくあります。

この勉強会、基本的には半ば強制参加のことも多く、発表者の立場からすると、病棟や外来業務、学会準備や研究活動の時間を圧迫する要因にもなりがちです。さらに言えば、自分の自由な時間、家族との時間も犠牲になることすらあります。

だからこそ、「いかに効率よくスライドを作りきるか」は、医師人生の中で非常に重要なスキルになってくると思っています。

今回の記事は、スタッフ医や助教といった、自分でスライドを作成し完結できる方向けに書いています。学生や研修医、レジデントの方は、上級医の確認や指導を仰ぐ必要があるケースが多いため、その点を見落とさないよう注意してください(そのあたりは“キーポイントや注意点!”の箇所で補足します)。

この記事を書いた人
Dr.Tk

はじめまして。本ブログの管理人で、感染症専門医・総合診療医として診療に従事しています。
臨床における疑問点について、できる限り多くのエビデンスを交えながら発信することを心がけています。
たまに全然関係ない話題や読んだ本の紹介もします。

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スライド作りをいきなり始めない

まず、大前提として言いたいのが、「いきなりPowerPointを開く」のはNGということです。

スライド作りには段取りがあります。順番を飛ばしてしまうと、結果的に手戻りが発生して、時間もエネルギーもロスします。

タスクを分解する

日常生活におけるタスクって、実はかなり細かく分かれていますそれを無意識的に行なっているはずです。

たとえば「コンビニでコーヒーを買ってから出勤」といった行動でも、無意識のうちに以下のようなタスクが含まれています。家から職場までのルート上で立ち寄れるコンビニを思い浮かべ→寄り道時間を加味して家を出て→好みのメーカーのコーヒーを選び→支払い方法を選んで購入…という感じに。

これは医療行為でも同じです。「○○さんにサーフロー入れておいて」と言われたら、誰もが頭の中で自動的に細かい手順を思い浮かべているはずです。駆血帯や針捨てボックスを用意して→何Gの針にするか選ぶ→患者さんの所に行き説明し→手技中の手順もほぼ無意識に実行しています。

初診時カルテの記載だってそうです。現病歴や既往歴を確認し→バイタルと身体所見をまとめ→採血や画像を貼り付け→それを元にproblem listを作って→assessmentに原因・治療・フォローを書いて…等、全部、意識せずとも手が動いています。

では、「勉強会のスライド作成を考えずにできる人」は、どのくらいいるでしょうか?

筆者としては、「考えずにできる」人はまずいないと思っています。殴り書きのように作り始めて作れる人がいても、それは結果的には非効率であったり、もっと高いクオリティを出せるのに出せずに終わっている可能性が高いと考えています。

勉強会を分解する

では実際、「勉強会の発表準備」というタスクを細かく分解すると、どうなるでしょうか。一案としては、以下になります。

  • 1. 期限、発表時間、ターゲットを確認する
  • 2. ターゲットの「需要」を見定め、「テーマを決める」
  • 3. テーマを具体的な内容まで掘り下げる
  • 4. スライドのアウトラインを作る
  • 5. キーになる疑問点やメッセージを羅列する
  • 6. エビデンスを一気に洗い出す
  • 7. スライドに一気に出力していく
  • 8. 予行演習とブラッシュアップ

これらを順に解説していきます。

1. 期限、発表時間、ターゲットを確認する

スライドを作るうえで、まず最初に確認しておくべき項目がいくつかあります。いつが発表予定日なのか、時間やスライド枚数が何枚か、などです。勉強会に来る人も何年目ぐらいの先生たちなのか、あるいは研修医や学生もいるのか、など様々です。

自分だけで完結するなら期限はゆるめでOK

もし自分一人で作業が完結する発表(例えば医局内の勉強会など)であれば、余裕を持って作業しても全く問題ありません。筆者の場合、

2週間前までに アウトライン
1週間前までに エビデンスの洗い出し
3日前までに  スライド完成

これくらいのスケジュールで進めています。バッファも2〜3日あれば、他の業務に追われても回ります。

*ここで注意!*
一方、上級医や他診療科、他職種を巻き込むような発表であれば、余裕を持ったスケジューリングが必要です。筆者は、医局内で垣根が低い場合、アウトライン完成時と一次原稿のタイミングで確認をお願いしています。このタイミングでズレが修正できれば、後々の労力が全然違います。

時間配分:1スライド=1分とは限らない

よく「1スライドあたり1分」と言われますが、必ずしもそうとは限りません。身内だけの発表なら多少時間オーバーしても許されますし、後々に資料としても共有するなら、busyなスライドも許容されます。なので、勉強会のような場では、1スライドあたりの時間はあまり気にしてません。

2. ターゲットの「需要」を見定め、「テーマを決める」

これは本当に大事です。誰に向けて話すのか、相手は何を知りたがっているのか。この「需要」をしっかり見極めるだけで、テーマ決めが格段に楽になります。過去にやった内容と重ならないようにしつつ、「4〜5年目の若手医師」が「ちょっと困る」くらいの難易度が勉強会ぐらいだと興味を持ちやすいです。

*ワンポイントアドバイス*
もし時間があるなら、勉強会が決まったぐらいの段階で後輩たちに困ってることを聞くのもアリです。みんなが知りたがってる内容を勉強会にしましょう。
フランクに声をかけることで、全体の心理的安全性が高まります。

3. テーマを具体的な内容まで掘り下げる

仮に「filmarrayについて話す」と決めたとしましょう。でも、テーマが広すぎると、曖昧で漠然としすぎて、方向性が定まらずに泥沼になります。

内容はどうしましょうか?費用? 手技? 陽性率? 偽陽性・偽陰性? 検出対象の意味?…etc。全部を盛り込もうとすると時間内にはとても収まりませんし、仮にすべてを抑えようとすると一個一個の内容が薄くなります。

筆者なら、「filmarrayの偽陽性と偽陰性」に絞って、「filmarrayの落とし穴 あるある7選」みたいなテーマにします。絞り込むほど聞き手も集中して聞けるし、作る側も方向性にブレがなくなります

※filmarray=上気道感染症を網羅的に検出できるマルチプレックスPCRで、COVID-19やインフルエンザ、RSウィルスなどを1検体で一気にPCRで調べられます。
ビオメリュー・ジャパン 全自動遺伝子解析装置・専用試薬 BioFire® FilmArray®
https://www.biomerieux-jp.net/clinical/c025.php

4. スライドのアウトラインを作る

ここでいったん、アウトラインだけザザッと書いていくのがおすすめです。例えばfilmarrayの話であれば、

・タイトル
・緒言(filmarrayがなぜ今話題なのか、なぜ話す必要があるのか)
・おさらい(基本的な原理、検出対象)
・落とし穴リスト(あるある7つ)
・落とし穴①~⑦の個別解説
・落とし穴まとめ
・Take-home message(ここで何を覚えて帰ってほしいか)

このように構成を決めておくと、全体の見通しがつきやすく、途中で話が脱線するのを防げます

*ワンポイントアドバイス*
アウトラインができたタイミングで、共著の人や関係者がいるなら一報しておきましょう。
ここで「ちょっと方向性が違う」と言われた場合でも、まだ取り返しがつきます。完成後に言われると、修正の労力が数倍かかります。これは筆者が何度も失敗して学んだことです。

5.キーになる疑問点やメッセージを羅列する

アウトラインができると、自分の中で「何が分かっていて、何がまだ分かっていないのか」がはっきりしてきます。この段階では、考えられる疑問点や、伝えたいメッセージを一気に書き出していきます。

例えばfilmarrayであれば、

「パラインフルエンザって検出されたら何を意味するの?」 「RSウイルスって何日くらい排出が続く?」 「この検査の偽陰性・偽陽性はどれくらい?」 「検出された結果は臨床的にどう解釈すればいい?」

など、話の中核になりそうな点をメモ書き程度でもいいのでリストアップします。

このリストが、後で文献を検索する際の“指針”になりますし、発表時の説得力にも直結します。

6.エビデンスを一気に洗い出す

タスクというのは、いったん中断されると効率が一気に落ちます。これは集中力の問題というより、「文脈が切れる」ことによって、再開時に“何を調べていたか”の思い出し作業が発生するからです。なので、調べ物は“調べ物モード”のときに一気にやってしまうのがおすすめです。この業務中断の非効率性は、別記事(医師に必要な仕事術・時間管理術)でも話した内容と重複します。

医師に必要な仕事術・時間管理術
エビデンスによると、中断されたタスクへの再集中には平均23分かかる(Gloria Mark et al.)ともされています。ただでさえ業務中断が多い医療現場では、中断リスクの少ない時間帯にまとめて終わらせるだけで、1日全体の効率が大幅に上がります。
https://giminfection.com/2025/05/30/time-management-for-residents/

なので、文献やUpToDate、各種ガイドラインを開いて、前述の疑問点に沿って、該当する情報を一気に収集します。筆者はPaperpileを使って文献を整理していますが、ZoteroやEndNoteなど、自分に合ったものを使えば良いです。調べ終えた情報は、どんどん文献管理ソフトのメモに貼り付けて、後のスライド作りで使えるようにしておきます。

PubMedやGoogle Scholarで一次情報にあたるのが基本ですが、どうしても手間なら最近は生成AIも補助的に使えます。ただし、内容の信頼性は必ず自分で担保を取ってください。

スライドに一気に出力し、一次原稿を作る

ここまできたら、もう一気にスライド作成に入ってしまいましょう。注意点としては、「見た目を整えよう」とする前に「中身を一通り出し切る」ことを優先することです。引用文献を後から書こうとすると二度手間ですので、注釈と一緒に書き出してしまうのがおススメです。

筆者は診療科用のスライドテンプレートを使い回しており、これが効率を上げてくれます。スライドタイトルと内容の文字のフォントの比率や、デフォルトの大きさ、自動調整の有無などです。(これはいつか別記事で紹介予定です)。

*ワンポイントアドバイス*
一次原稿を書き終えたタイミングでも、共著者や関係者がいれば一報入れておくと安心です。
ここでも「方向性がちょっと違う」と言われることはあります。早めのフィードバックをもらえるようにタイミングを自分の中に作っておくと良いです。

予行演習をしながらブラッシュアップ

予行演習を兼ねて口に出して話してみると、「説明しにくい」「言いよどむ」「話の流れが急に飛んでいる」などの問題点が露呈します。そこで情報を整理・取捨選択し、スライドを作っていきます。前述のテンプレートを使っておけば細かい調整(インデントや文字の大きさの統一、引用文献の文字色等)は不要ですので、2-3週する頃にはすでにスライドは完成しています。

*ここで注意!*
情報を取捨選択する際、削除することはしないでください。筆者は修正前のスライドをスライド後半にコピーしておいて、「バックアップ」してあります。
<これ以降のスライドはバックアップ目的で、本番では削除します>
と書いておけば共著の人たちも何目的のスライドなのか分かります。

まとめ

  • スライド作成は「いきなり手を動かす」のではなく、「分解」して始める
  • 勉強会というタスクは、「期限」「発表時間」「ターゲットの需要確認」「テーマ決定」「アウトライン作成」など、工程ごとに細かく分解する
  • テーマは具体的に考え、限られた時間で扱える「ちょうどよい粒度」
  • 疑問点や伝えたいメッセージをリストアップして、それに対応するエビデンスを一気に集める
  • スライド出力と一次原稿作成も「一気にやる」
  • 予行演習をしながら最終原稿に仕上げる

この流れがしっかり身につけば、スライド作成は“時間を奪われるタスク”から“自分を育てるタスク”に変わります。短時間でも質の高い発表ができるようになれば、臨床・研究・プライベートのバランスも自然と整ってきます。

ぜひ、自分なりのスタイルを少しずつ確立していってください。

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