大腸癌と関連する細菌のことについて

感染症
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先日、Streptococcus gallolyticus の症例について勉強していました。
感染症専門医の間では、この Streptococcus gallolyticus(旧名:Streptococcus bovis)大腸癌との関連はよく知られており、病原性や発症リスクの面でも注目されています。

調べているうちに、この菌以外にも大腸癌と関係があるとされている病原体がいくつかあることがわかりました。今回はそれらをまとめて紹介します。


この記事を書いた人
Dr.Tk

はじめまして。本ブログの管理人で、感染症専門医・総合診療医として診療に従事しています。
臨床における疑問点について、できる限り多くのエビデンスを交えながら発信することを心がけています。
たまに全然関係ない話題や読んだ本の紹介もします。

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Streptococcus gallolyticusと大腸癌

以前は Streptococcus bovis type 1 と呼ばれていたこの菌は、現在は分類が進み Streptococcus gallolyticus とされています。この菌には亜種(subspecies)が4種類存在します:

  • Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus
  • Streptococcus gallolyticus subsp. pasteurianus
  • Streptococcus gallolyticus subsp. infantarius
  • Streptococcus gallolyticus subsp. macedonicus

このうち、特に subsp. gallolyticus が大腸癌との関連性が強いとされています。in-vitroにて腫瘍組織内での増殖性が高く、コラーゲンの産生や血管新生に関与するとされており、腫瘍環境の形成に寄与している可能性があると考えられています。実際に、Streptococcus gallolyticus による感染性心内膜炎の症例のうち、約65% に大腸ポリープまたは大腸癌が存在していたというデータもあります。

大腸癌ではないですが、subsp. pasteurianusは膵臓癌との関連が示唆されています。subsp. infantariusは小児の髄膜炎、subsp. macedonicusは頻度は少ないようですが感染性心内膜炎の原因として報告されています。

重要ポイント:
Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticusが血液培養から検出されたり、感染性心内膜炎の原因となった場合は、大腸内視鏡検査を実施すべきとされています。一方、その他の亜種(pasteurianus, infantarius, macedonicus)が検出された際にも大腸内視鏡検査が必要なのかどうかは筆者にはわかりません。

Clostridium septicum と大腸癌

Clostridium septicum は、非外傷性ガス壊疽を引き起こすことがある嫌気性グラム陽性桿菌です。
この菌による感染症もしばしば 大腸癌や消化器悪性腫瘍を背景に発生するとされ、国内外で症例報告が複数存在します。特に、外傷がないのにガス壊疽や菌血症を起こした場合には、消化器系悪性腫瘍のスクリーニング(特に大腸内視鏡)が推奨されます。

重要ポイント:
Clostridium septicum菌血症の際には消化器系の悪性腫瘍を疑う

発癌細菌と呼ばれる菌種

Helicobacter pyloriと同様に、様々な菌と発癌リスクが報告されていますが、その中には産生する毒素と発癌リスクが関与しているものが報告されています。Fusobacterium nucleatum、Escherichia coli(pks陽性株)、腸管毒素産生Bacteroides fragilisなどが代表的ですが、それ以外にもさまざま報告があります。

Fusobacterium nucleatum と大腸癌

Fusobacterium nucleatum は、近年注目を集めている 腸内細菌と大腸癌の関係を語る上で非常に重要な菌です。嫌気性グラム陰性桿菌で、腫瘍組織からの高頻度な検出が報告されています。

この菌は:

  • 癌細胞への接着と侵入
  • 局所免疫の抑制(免疫回避)
  • 炎症の持続による腫瘍促進

といったメカニズムにより、癌の進行や悪性度の上昇に関与している可能性が示唆されています。


Escherichia coli(pks陽性株)

Escherichia coli(大腸菌) の中でも、pksアイランドという特定の遺伝子クラスターを持つ株が、発癌に関与する可能性が注目されています。この遺伝子群は colibactin(コリバクチン) という物質を産生し、DNAを損傷させる遺伝毒性を持つとされ、細胞の癌化を促進するメカニズムが報告されています。

エンテロトキシン産生Bacteroides fragilis

腸内の嫌気性菌のうち最も多くを占めるB. fragilisのうち、B. fragilis毒素(BFT)を産生する株をエンテロトキシン産生Bacteroides fragilis(ETBF)と呼びます。このBFTも同様に腫瘍形成促進を促進することが知られています。

重要ポイント:
ただし、pks陽性E. coliやエンテロトキシン産生B. fragilis等の遺伝子学的検査のハードルは低くはないかつ、日常的な検査では検出できないですので、実臨床上は問題にはならないかもしれません。

他にも様々な細菌が腫瘍と関連する

上記にまとめた細菌以外にも様々な菌が発癌を誘発すると報告されています。以下の論文にまとまっていますので、一読してみるといいかもしれません。(ただ、一番話したいS. gallolyticusのことが書いてありませんが…)

Dougherty MW, Jobin C. Intestinal bacteria and colorectal cancer: etiology and treatment. Gut Microbes. 2023 Jan-Dec;15(1):2185028. doi: 10.1080/19490976.2023.2185028. PMID: 36927206; PMCID: PMC10026918.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36927206


最後に

感染症の診療を通じて、思わぬ形で癌が発見されることがあります。
血液培養で特定の菌(例:Streptococcus gallolyticus, Clostridium septicum)が出た場合には、癌の可能性を念頭に置いた検査が想定されます。また、腸内細菌そのものが癌の発症や進行に関わる可能性も近年明らかになりつつあり、今後さらに研究が進む分野です。

今後も感染症と腫瘍の接点について、新しい知見があれば随時まとめていきたいと思います。

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